REPORT

2017.02.02

1月の合同練習@福島県伊達市

1月の合同練習@福島県伊達市

1月28日の土曜日の朝8時台に降り立った初めての駅のプラットホームには残雪が残り、小雪が舞う、ここは伊達駅。福島駅から東北本線に乗り換え北へ二駅来たところです。

駅の階段を楽器を担いで降りる団員に混じって白いスーツケースを手にしていらっしゃるのは指揮の栁澤敏男さんです。東欧を本拠地に旅の多い日々を送っていらっしゃるだけにスーツケースは目立つ色を選ばれたのか、などと考えているうちに今度はバスに乗り換えです。

仙台からの乗車組に合流して揺られること約10分、今月の練習会場の伊達市ふるさと会館に到着しました。

雪の中にあってもやはり白いスーツケースは目立つということが検証できます。

間違えて着付け教室に行った団員がいるとは思えないのですが、今日は試験や補講が多いらしく、いつもより30人ほど少ないメンバーでの練習です。

伊藤ひかりさんがコンマス席に座ってチューニング。本日の参加の団員全容はこちら。

午前中には郡山公演を主催していただく地元の新聞、福島民報社の事業部の方がお見えになり打ち合わせをしました。

TYOの美術担当、長嶋りかこ先生による洗練の技が溢れたチラシであります。チケットの一般発売は2月4日(土)からなのです。みなさまのご来場をお待ちしているのであります。福島民報では新聞広告も用意されていて、その原稿案ですね。

福島民報創刊125周年記念事業だったとは! 福島、東北のみならず日本全国からのご来場をお待ちしています(ちなみに東京公演は前日の3月25日(土)です ) 。
そうこうしているうちに昼休み。いつもながらあちこちで輪ができているランチのひと時を圧縮して一枚の写真にしてみました。

わたくしども事務局はというと、伊達市が実家の大学生、トロンボーンの大波さくらさんの強い推薦により地元のお店のお弁当をいただきました。

いやぁ、これが美味しかった。わたくし、今までの人生においてトンカツ弁当を幾多となく食べておりますが、これは記憶に残る味です。冷えていて美味しいですから、こんど機会があったらお店に揚げたてアツアツを食べに伺いたいものです。
以上、今回の伊達市観光情報でした。

午後は3月の演奏会のメイン楽曲であるマーラーの交響曲第1番を集中的に。

通しで演奏しても50分から1時間かかる大曲ですからあっという間に時間が過ぎていきます。途中の休憩の合間にも3月までの団員有志による自主的演奏会の確認をみんなでしていました。こちらは今週末の福島県いわき市でのミニコンサート、大学生による手作りのチラシになっています。出身の市町村名まで入れたのはいいアイデアだ!

2月4日の土曜日、お近くの方も遠方の方もお時間とご興味が合えば、ぜひいわき市の商業施設ラトブまで足をお運びください。
そんなこんなでこの日の練習時間もあっという間に過ぎ、お迎えのバスがやってきました。

しかし、今月1月の練習は東北ユースオーケストラ合同練習会史上初の試み、本番が迫って来たから二日連続練習を導入しました。そのため栁澤敏男さん、われわれ事務局は福島市泊となるため、夜は福島の地元大学生メンバーを誘って名物の円盤餃子を食べに行きました。

前にも行ったことのある餃子の専門店「川鳥」のディープに焼きあがった香ばしい逸品であります。このお店には水餃子もありまして、氷点下の福島の夜には腹に沁みいる滋味でした。

今回の土日連続合宿で懸案になったのは、福島、宮城の団員は連日通いでいいとして、岩手の団員はどうしたものか問題でした。この悩ましさをあっけなく解決したのは気負いの無い善意でした。福島事務局の「東北ユースオーケストラの母」、元FTV(福島テレビ)でジュニアオケをまとめてきた大塚真理さんには「家に何人かだったら泊まれますけど」とお申し出いてだき、また伊達市のトンカツ屋を推薦してくれた、今は東京でスペイン語を専攻する大学生の大波さくらさんからは「うちの実家でよかったら」と民泊(無料)に手を挙げてくれました。わたくしどもが福島市内で餃子祭りをしていた頃、伊達市の健康ランド「カッパ王国」ではこんな光景になっていたそうです。

楽しそうだなあ。餃子も美味しかったけど、自分もカッパになりたかった。岩手の高校生の遠藤くん以外は全員メガネだね。

さて日付が変わって29日の日曜日、まずはパートリーダーのミーティングから今日の練習メニューについての確認からスタートです。

真俯瞰ショット過ぎましたね。

トランペットのトップ中村祐登くんが指揮の栁澤敏男さんから指示を受けた、マーラーの交響曲第一番演奏にあたってのパートの足し引きを伝達します。

二日目は参加者も増えました。

栁澤さんも本番まで二ヶ月を切ってきたせいか、指導に気合が入ってきました。なんでも「去年の夏から練習をはじめたマーラーは難しい曲だけども、だいぶん子供たちの体に入ってきました。しかし、意外と今回取り組む民謡が難しい。坂本さんの曲も藤倉大さんの東北民謡の編曲もさすがだなあという、子供が演奏するには”立派な楽譜”なんですよ」とのこと。たとえば、今回の演奏会では監督の坂本龍一さん作曲の沖縄民謡に沿ったアレンジの楽曲を古謝美佐子さん率いる、うないぐみが三線を弾き歌い披露する『弥勒世果報(みるくゆがふ』という曲があるのですが、各パートの「音がぶつかる」オーケストラ譜面になっているそうです。せっかくなので原曲のPVを貼っておきます。

そして、この日練習した打楽器と木管楽器だけのさわりの部分も貼っておきます。

このパートだけでも何とも心地よい響きです。ぜひ本番での演奏を楽しみにしていただければと思います。

二日目の昼は、あえて「これまで話したことの無い団員のことを知ろう」という趣旨で、誕生月ごとに集まって食べることにしました。では、どんどん紹介していきます。まずは8月生まれ。

9月生まれ!

9の手文字が行き渡ってないそ。ひとりピースしてると2月生まれに間違われるよ、パーカッションの中学生堤くん!

ん?! ここは2月なんだか、3月なんだか、4月?

おー、ここはわかりやすい10月ですね。しかし、ファゴット持ちながら昼食を食べた人はこの日の地球上でも西村さんだけだと思うよ。次もわかりやすい小道具をとともにランチしてね。

はい、1月生まれ。坂本龍一監督も今日来られていたらこのチームだったねー。

5月生まれはハンドパワーみたいでいいね(たとえが古いね、歳のせいだ、ごめん!)。

おや、7月生まれは派閥的な団結感があるね。

えーっと、4月なのか8月なのか、わかりません。
そんな誕生月ランチもそこそこに練習をはじめる人たちがいました。3月の演奏会でロビーコンサートを行うチームですね。金管四重奏!

そして、これはなんと称していいのか。

弦楽四重奏にファゴット? さっきファゴットを持ちながらランチしていた西村さんがボーカルで弦4人がコーラスの編成と受け止めればいいのでしょうか。演奏会当日が楽しみですね。                                                                                           

そして事務局控え室に行ってみたら、昨晩団員を受け入れていただいた大塚さんがいらっしゃいました。「昨日の夜はどうでした?」
「いやぁー、女の子3人みんなおとなしいのよ。でも311の時にどうしてたかって話になってね。わたしたちも大変だったけど、もっと大変な体験をした子がいるのよー」

「東北ユースの母」大塚さんから間接的に聞く、今年度から入団した気仙沼の中学生女子の話に驚きました。「えーっ、淡々と打楽器を叩いている、あの子が?!」
気仙沼と言えば、震災後に日本酒酒造の角星さんの仕事をしたり、友達が気仙沼ニッティングの社長になったり、地元の自家焙煎珈琲店アンカーコーヒーの小野寺社長とはなぜか東京でばったり会ったり、何かと個人的にご縁のある土地でしたので、「午後の休憩時間に話を聞いてみます」とホールに戻ったら、いました。

TYO随一のひょうきん娘であるヴァイオリン鈴木南美さんときゃっきゃと笑っていた三浦瑞穂さんを発見しました。「大塚さんから話を聞きましたよ。休憩時間にインタビューしていいかな? もし話をするのがつらくなったら途中で止めてもいいから」「大丈夫です」

ちょっと見えにくいかもしれませんが、鈴木さんが頭に乗せていたのは、みかんでした。

あらためて上の写真の右側が気仙沼出身の三浦瑞穂さん、打楽器担当の中学三年生です。

311の時はどうしてましたか? 体験を聞かせてくれますか?

「当 時は小学三年生で9歳でした。ちょうど午後の2時46分は習字教室に行く直前でした。家には祖父母と三人でいました。父と母、母の妹の伯母は外に働きに出 ていて、妹と弟は保育園に行っていました。突然大きな揺れが来て、これは危ないと思って祖父母と玄関の外に飛び出しました。家の中で食器が割れる音がすご くて、瓦も落ちてきて、家の壁もひびが入り、“家が壊れる”と叫んだのを覚えています。祖父が慌てて妹と弟を迎えに行き、家に入れないので祖母と車の中で 待機していました。車内でワンセグのテレビ放送で仙台空港の様子を見て、最初はこれは夢だと思いました。祖父は戻ってきてからも自治会長なので外に出てい たのですが、慌ててわたしたちの車にやって来て、“黒い壁が迫って来ているので逃げなさい”と言いました。急いで国道の向こうの高台まで祖母を引っ張りな がら逃げました。高台から家の海側にあった本家の屋根が流されていくのを眺めていました。結果的に、わたしたちの家の隣は床上浸水、その隣の家から海側の 家はすべて流されてしまいました。
市内で働いていた父と母と無事合流でき、近くの中学校の体育館に避難しましたがぎゅうぎゅう詰めで身動きが取れ ないほどでした。強い余震が続く中、備蓄されたいた食べ物が無く、その日はひとり一枚のビスケットが配られただけでした。学校によっては、それがクッキー だったり、竹輪だったりしたようです。次の日から地区ごとに校舎に移りました。同じ地区に住んでいた同級生には弟がいて、わたしの妹と弟と同じ保育園に 通っていたので、よく知っていました。弟の泰河(たいが)くんは3日後におじいちゃんおばあちゃんと車ごと流されているところを発見されました。同級生の お母さんが遺体安置所から帰ってきて“ 泰河が亡くなった~”と泣き叫んでいらっしゃいました。
家には1週間後に行きましたが、余震が怖く、山側の父の実家に避難して。電気が復旧した1か月後に家に戻りました。」

それは大変な経験をしたね・・・。そのひどい体験で人生観というのかな、世の中に対する考え方とか、生き方とか、変わりましたか?

「関 東大震災とか教科書の中だけの話と思っていました。しかし、地区によっては全員が亡くなって、壊滅して、解散した地区があります。こんなことが本当にある んだなあと実感しました。妹も保育園に通う同級生を2人亡くしています。その一人は家の中で中学生のお姉ちゃんだけが生き残りました。知り合いはいっぱい 亡くなりました。わたしも習字教室に早く行っていたら今生きていないです。妹弟、おじいちゃんも危ないところでした。自分より辛い人がたくさんいる。その ことをよく思います。わたしたちは、まだよかった。だから、自分だけのために生きているのではないと思うようになりました。この先がまだまだある子も亡く なった。生かされたなりのことをしなくちゃいけない」

わたくしは言葉に詰まりしました。三浦さんの話をキーボードに打つ今も画面が霞んでおります。やっと言えた質問は、
これからこのオーケストラで何をしたいですか?                                                     

「震災を体験した自分たちも元気にしていることを、音楽を通じて発信していきたいです」

最後に担当の打楽器を持ってもらって写真を撮りました。三浦瑞穂さん、つらい思い出話を聞かせてくれてありがとうございました。

練習のホールに戻ると、柳澤さんが「マーラーの第一番を通しで合奏」と言うではないですか。第一楽章の最初のほうに鳴り響くトランペットが葬送の中の希望の音に聞こえ、涙腺の故障を堪えきれず、たまらずホールを出てしまいました。

すると、マーラーは降り番で休憩している4人組がいました。小学生の福澄くんは殊勝なことに文庫本を読んでいるではありませんか。邪魔して悪いけど、おじさんには気分転換が必要だ。記念撮影だ!

(もっと練習して、来年はマーラーだろうが、シュトックハウゼンだろうが、乗り番になろうね)

さ て、今回の練習で栁沢さんが最も熱心に指導されたのが、みんなの地元3県の民謡を現代音楽家の藤倉大さんが編曲された 『ThreeTohokuSongs』でした。そもそもみんな聴いたことが無いのですね。南部よしゃれ、大漁唄い込み、相馬盆唄。しかも、演奏の途中に民 謡ならではの掛け声を入れなくてはなりません。そこで、降り番の人たちに掛け声専門部隊を結成してもらうことになりました。

その名も「チーム・チョイサー」。南部よしゃれの掛け声から取りました。チーム・チョイサーの今後の活躍をご期待ください。

そして、今回の練習では今年の311の石巻での演奏会に参加する有志をトランペットの中村くんが募っていました。その熱い思いに応えたのは18名の団員(この時にいなかった人も含む)です。

よい演奏となることを期待しています。そして演奏会場となる復興住宅の集会場に贈呈する記念写真と額縁の費用が必要ということで、中村くんとヴィオラの服部さんの呼びかけにより、小学生にもやさしい一口10円から集めたところ、

当初の目標額3,000円を超える、12,030円が集まりました。プチクラウドファンディング成功じゃないですか。よかったよかった。

そして、二日間の練習中にホールに張り出していたのがこの紙でした。

昨年の12月にTYOカルテットが出演させていただいた、 吉永小百合さんと坂本龍一監督によるチャリティーコンサート『平和のために~詩と音楽と花と』 が、NHKワールドとNHKBSプレミアムで放送されることになりました。その場に居合わせたわたくしは深く感動いたしました。この機会にぜひお見逃し、録画逃しありませんよう。

そんなことで、初の1泊2日練習も無事終了し、上りの東北新幹線に乗り込んだわたくしは疲れているのに、感情が高ぶっているせいか眠気が訪れず、今回持参した3冊の本から最も難解なものを選び、読み始めました。現代を生きるフランスの哲学者カンタン・メイヤスー『有限性の後で: 偶然性の必然性についての試論』です。思弁的実在論を展開するわたくしと歳がさほど変わらないカンタンな割には難解な書物の著者は、カント以来の西欧哲学の200年の歴史に真っ向から挑戦をしかけている勇敢な人です。
さっき聞いたばかりの気仙沼の三浦さんの話とあまりに符合するので思わずページをめくる手を止めました。

「いかなるものであれ、しかじかに存在し、しかじかに存在し続け、別様にならない理由はない。世界の事物についても、世界の諸法則についてもそうである。まったく実在的に、すべては崩壊しうる」

三浦さんの言葉をもう一度。
「生かされたなりのことをしなくちゃいけない。                                                     
震災を体験した自分たちも元気にしていることを、音楽を通じて発信していきたいです」

演奏会まであと2か月を切りました。チケットの一般販売は2月4日の土曜日からです。

引き続き東北ユースオーケストラへのご支援をよろしくお願いいたします 。