REPORT

2025.10.29

私の中に生きる、坂本監督の音

#東北ユースオーケストラを続けたい

このレポートを読んでくださりありがとうございます。
東北ユースオーケストラはみなさまのご支援によって成り立っております。 活動に対する寄付・募金については随時受け付けておりますので、ご協力の程よろしくお願いいたします。


こんにちは。東北ユースオーケストラ3期生、チェロパートの齋藤玲利です。
私の音楽の物語は、古びたアップライトピアノから始まります。音楽教師だった祖母の家で、幼い頃から歌やピアノで遊んできました。英才教育と呼ぶにはあまりに無邪気な遊びでしたが、その音の渦の中で、私の魂は音楽という暖かな体温を覚えたのです。才能には恵まれなかったかもしれませんが、その分、音楽は私にとって呼吸と同じくらい自然で、欠かせないものとなりました。

時は過ぎ、ヴァイオリンを嫌々ながら弾いていたあの頃、運命的な出会いが私を救いました。それは、地元のキッズオーケストラで見た、一人のチェリストの姿です。その人の奏でる音は、深く、まるで心の奥底の憂いをそっと撫でるかのように柔らかい。私はたちまちその楽器の虜になりました。それとほぼ同時に、私の人生を決定づけるもう一つの音との出会いがありました。

東北ユースオーケストラの監督、坂本龍一氏の楽曲です。

力強くも繊細なその音色は、瞬時に私の心を貫きました。それはただ美しいという以上の、根源的な何かでした。この音を、この監督の音楽を、「絶対に自分で弾く」――幼いながらに心に誓った、純粋で揺るぎない願いが生まれた瞬間でした。そこから私は、坂本監督の音楽を追い求め、彼のすべてを知りたいと願う、熱烈なファンとなっていったのです。

小学校卒業を控えた早春、一つの募集要項が家族の手を通じて私のもとに届きました。東北ユースオーケストラ、三期生の募集。迷いは一秒もありませんでした。夢を叶えるチャンスが目の前にある。応募のボタンを押したその日から、私の胸は期待で張り裂けそうでした。そして翌春、私は大きな夢を一つ叶えたのです。

東北ユースオーケストラでの活動は、はじめ、私にとって「夢を叶えてくれる場所」でした。魂が震える彼の楽曲を、自分の手で弾くことができる。これ以上の喜びはありません。それ以外にも、経験したことのない大曲を弾くことになり、想像を遥かに超えた練習量で、全てが試練のようでしたが、毎回充実して楽しかったです。

しかし、その活動が深まるにつれ、その場所の持つ意味は急速に変化していきました。共に汗や涙を流し、一つの音を作り上げる中で、私は人と人が繋がる「強さ」を知りました。このオーケストラは、坂本監督が、震災という途方もない悲劇を経て、東北の若者たちに残してくれた、希望の「箱舟」であり、その船上で結ばれる絆は、血の繋がりを超えたもう一つの「家族」となりました。

そして何より、このオーケストラは私に震災の本当の姿を教えてくれました。私自身は大きな被害を受けませんでしたが、ここで出会った仲間は、震災で受けた心の傷、悲しみ、苦しみを言葉でなく音で伝えてくれました。教えてくれたのは仲間だけではありません。演奏を聴きにきてくださる方々、伝承してくださる方々のお話。そういった方々の経験と向き合うことで、あの震災が、私たちの東北にもたらしたものの重さ、そして、そこから立ち上がろうとする人々の静かな力を、深く、深く学ぶことができたのです。

私たちが奏でる音色の背後には、必ず誰かの笑い声があり、誰かの支えがある。私はその繋がりの深さに気づきました。それは、迷い、立ち止まりそうになった時に、私達を導き、支えようと、温かく、力強く伸ばされた「手」なのだと。その「手」のおかげで、私はただチェロを弾くだけの少年から、この世界で生きる意味を問う者へと成長することができました。

今でも、目を閉じると、あのコンサートホールの光景が鮮明に蘇ります。壇上に立つ監督の、あの穏やかな面差し。そして、そこから流れてくる力強く、時にあまりに繊細な音色。坂本監督の音は、私にとって最初に生まれた「希望の音」でした。そして、このオーケストラで仲間と出会った後では、それは、日常の中で忘れがちな、人との繋がり、故郷への想い、そして生きることの尊さという大切なものを、何度も思い出させてくれる「帰るべき場所の音」へと変わりました。

これから私がどんな経験をし、どんな音楽に出会おうとも、心に深く刻まれたこの音だけは私の中で流れ続ける羅針盤となるでしょう。

監督が遺してくださった希望の旋律、そしてこのオーケストラで育まれた「繋がり」というかけがえのない想いを胸に、今度は私たちがその音を一人でも多くの人に届けその心を動かす「希望の音」となれるように心を込めて取り組んでいきます。この奇跡のような場所と、関わるすべての人に、心からの感謝を込めて。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。これからも私たちは皆様に私たちの音をお届けするために日々精進していきます。また演奏会で会える日を楽しみにしています。

チェロパート 齋藤玲利


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