僕を支えた音。
#東北ユースオーケストラを続けたい
このレポートを読んでくださりありがとうございます。
東北ユースオーケストラはみなさまのご支援によって成り立っております。 活動に対する寄付・募金については随時受け付けておりますので、ご協力の程よろしくお願いいたします。
皆さん、こんにちは。
今回は福島県出身、トランペットパート大学2年の我妻世音がお送りします。
僕が音楽に出会ったのは、まだ2歳のときでした。みなさんには少し珍しいかもしれませんが、僕の最初の楽器は「エレクトーン」でした。エレクトーンは、鍵盤やペダルを使ってさまざまな音を同時に奏でられる電子オルガンです。ひとつの楽器でオーケストラのような音を出せるその魅力に、幼いながらも心を惹かれました。電子的な音を操るという点では、東北ユースオーケストラの音楽監督である坂本監督の世界観とも、少し通じるものがあるのかもしれません。
そして、今僕がメインで演奏しているトランペットに出会ったのは、小学5年生のときです。きっかけは、当時合奏部でトランペットを吹いていた姉の存在でした。舞台の上で堂々と音を響かせる姉の姿が格好よくて、「自分もあんなふうに音で人を惹きつけたい」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。初めて自分の息が金属の管を震わせ、音になって響いた瞬間、まるで世界が一瞬で変わったような感覚がありました。そのたった一音が、僕にとって音楽の意味を変えた出来事でした。
東日本大震災が起きたのは、僕が5歳のときでした。あの日のことは今でも鮮明に覚えています。家が揺れた瞬間の恐怖、家族と離れないように手を握りしめた感覚、テレビから流れてくる映像の衝撃。小さな子どもだった僕にとって、すべてが不安で、世界そのものが壊れてしまったように感じました。幼稚園も一時的にお休みになり、いつも通りの生活が戻るまでの時間は、子どもながらにとても長く感じられました。
そんな中で、僕の心を落ち着かせてくれたのが「音楽」でした。声を出せば歌を歌える。身体を使えばリズムが取れる。音楽は、形のない安心を与えてくれるものでした。気づけば僕にとって音楽は、 「心を支えてくれるもの」になっていました。
高校2年生のとき、友人の紹介で東北ユースオーケストラに入団しました。最初は「大きなオーケストラで演奏してみたい」という単純な憧れがきっかけでした。しかし活動を重ねるうちに、その思いはどんどん変化していきました。
入団した当時の僕は、震災について「もう知っているつもり」でした。テレビや学校の授業で学んできたし、福島に住んでいたこともある。自分なりに理解していると思っていたのです。けれど、東北ユースオーケストラで仲間やスタッフの方々と出会い、被災した地域で演奏をする中で、僕は本当の意味で「何も知らなかった」と気づかされました。気仙沼伝承館での演奏会の後、「ありがとう」と言ってくださった方がいました。その表情の奥にあったのは、単なる感動ではなく、悲しみや喪失、そしてそこから生まれた強さでした。その瞬間、音楽が“人の記憶”や“想い”と深くつながっていることを実感しました。そこから僕は、「自分は被災地で生まれ育った者として、もっと震災と向き合わなければならない」と強く感じるようになったのです。
僕にとって東北ユースオーケストラは、「音楽を通して人と人がつながる場所」です。演奏会では、同じ志を持つ仲間と音を重ね、その中に被災地の記憶や未来への希望が確かに息づいています。ここでは単に技術を磨くだけではなく、「なぜこの音を届けたいのか」「誰に何を伝えたいのか」を常に問いかけられます。僕にとってこのオーケストラは、音楽家としてだけでなく、人としても大きく成長できる大切な場所です。
活動を通じて僕が感じた一番の変化は、自分の中に「責任」と「覚悟」が生まれたことです。以前は、自分の演奏を少しでも上手に聴かせたい、間違えたくない、といった個人的な目標ばかりを追っていました。けれどこのオーケストラでは、ひとりの音が全体の響きを変えることを知り、そしてその音が誰かの心に届く瞬間を何度も経験しました。その中で、音を出すという行為の裏には「誰かの想いを受け取る責任」があることを学びました。
被災地での公演では、会場にいる方々の空気が、音の響きとともに変わっていくのを感じることがあります。最初は静まり返っていた会場が、演奏が進むにつれて柔らかな空気に包まれていく。音楽には言葉では届かないところに届く力がある。その力を、自分の音で少しでも支えたいと思うようになりました。
この経験を通して、僕の中にはひとつの新しい目標が生まれました。「音楽を通して、人の心に寄り添える演奏者になりたい」ということです。音を出す技術だけでなく、聴いてくださる人の想いや背景に寄り添い、その心の奥にそっと触れられるような演奏がしたい。そのために、これからも自分を磨き、音に真摯に向き合っていきたいと思っています。
将来は、音楽を通して「誰かの支えになれる人」になりたいです。東北ユースオーケストラの活動を通して学んだのは、音楽には人を癒し、励まし、そして前に進ませる力があるということです。僕自身、音楽に救われた一人として、その力を次の誰かへとつなげていきたい。どんな境遇にある人にも、音を通して「生きていることの温かさ」を届けられるような存在でありたいと思います。
そして、このオーケストラでは、同じ想いを持つ仲間たちと一緒に、その理想を形にしていきたいです。被災地で生まれたこのオーケストラが、これからも東北の記憶を未来へと受け渡していけるように。僕たちの音が、誰かの希望となり、新しい一歩を踏み出すきっかけになれたら、それほど嬉しいことはありません。
震災から年月が経ち、記憶が少しずつ風化していく中で、僕たちは「音」で語り継いでいく使命を持っています。悲しみを思い出すためではなく、そこから立ち上がった人々の強さや優しさを、未来へと手渡すために。僕はこれからも音楽を通してその想いを伝え続けていきたいと思います。
トランペットパート 我妻世音
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