REPORT

2024.12.01

東日本大震災物故者慰霊と被災地復興への祈り(東大寺)にて奉納演奏をいたしました。

11月27日(水)に東日本大震災物故者慰霊と被災地復興への祈り(主催:東大寺・鶴岡八幡宮)で奉納演奏をさせていただきました。会場はなんと南都の東大寺大仏殿!
9月に毎日放送主催の「OTOBUTAI」法隆寺での演奏に続く、奈良の古寺巡礼の仏縁でございます。

今回は坂本龍一監督と親交のあった東大寺の僧侶で清涼院(しょうりょういん)ご住職の森本公穣さんから「毎年鶴岡八幡宮さんと行っている311の慰霊の法要でぜひ演奏していただきたい」と貴重な機会をいただいたのでした。

こちらは2007年の3月12日に坂本監督が修二会(お水取り)に参拝された時のお二人のお写真です。

さてJR奈良駅に降り立ったのは東北ユースオーケストラ選抜のカルテットメンバーです。

駅付近のホテルに荷物を預け休む暇なく東大寺に向かいました。
もちろん休む暇なく大仏殿の真横の集会所をお借りして直前の音合わせです。

和室の左隅でお琴を弾いているような引率の事務局岡田直美さんはさておき、今回の4人のメンバーをご紹介します。

ファーストヴァイオリンの井澤佳子さん(宮城県出身・大学4年生)

セカンド・ヴァイオリンの伊達叶華さん(福島県出身・大学3年生)

ヴィオラの長沼由莉さん(福島県出身・大学3年生)

チェロの高橋李さん(福島県出身・大学4年生)

ひととおり3曲の演奏曲をさらった後は、休む暇なく音響チェックの時間が限られている本番会場の大仏殿に向かいました。

今日の式典のためにステージが組まれ、大勢の観光客(うち8割は外国人)に見守られながら音出しをいたしました。「せっかくなので一曲、一番有名な曲をやってみよう」と演奏し終わると拍手をいただけました。

今日の一番の聴き手、このお方です。

大仏様(盧舎那仏)の御前にて演奏できるとはなかなか得難い光栄なことです。311以来、毎年両社寺の主催で続けられているという「東日本大震災の犠牲者への慰霊と復興への祈り」の式次第は次のようなものでした。

神道と仏教の違いを超えてなされる厳粛な式典での奉納演奏ですので、東北ユースオーケストラ史上初の宗教行事での演奏となります。なぜこの社寺での組み合わせになったかというと、源平の戦いに遡る歴史がありました。平家によって焼き討ちの被害を受けた東大寺を源頼朝が多大な資金を出して再建に援助をしたことからはじまるそうです。10年かかって再建された、1195年の大仏落慶供養会には征夷大将軍となった源頼朝が妻の北条政子とともに鎌倉から数万の兵を率いて臨席した史実が残っています。鎌倉の鶴岡八幡宮は源氏の守り神として創建された神社です。実に800年以上の東大寺と鶴岡八幡宮の関係があっての祈りの式だったのです。

荘重にご紹介を受け、チェロのみならずMCも担当してくれた高橋さんがご挨拶です。

「本日は坂本龍一監督の作曲作品を献奏させていただきます。
最初に演奏いたしますのは「Aqua」です。
この曲は1998年に坂本監督が、娘さんの歌手、坂本美雨さんのために作曲された曲でした。その後、坂本監督のピアノソロによるインストルメンタルの曲としてコンサートでの定番曲となりました。昨年、カンヌ国際映画祭で受賞した映画『怪物』では、この「Aqua」がサウンドトラックとして使われています。
ヴィオラを担当する長沼は「Aqua」について、“美しいメロディーが心に染みます。
伴奏が加わっていくところは特に温かさが感じられて好きです。”と言っています。」

「ファーストヴァイオリンを務める井沢はこの曲について、“陸前高田の復興セレモニーに坂本監督と参加させていただいた際、ピアノ五重奏で演奏した曲のひとつです。監督はその際に水は私たちが生きていくのに大切なものだと仰っていたことがとても印象に残っています。また優しく包み込んでくれるようなメロディが好きです!”と語ってくれています。
今のコメントにありましたように、「Aqua」はラテン語で「水」を意味します。ここ東大寺で毎年31日から2週間行われる修二会(しゅにえ)は別名「お水取り」として親しまれています。坂本監督も生前、修二会に夜通し参加し、その体験からインスピレーションを得た作品を残しています。今も坂本龍一監督がこの堂内で微笑みながら見守っていただいていることを願いながら演奏いたします。それではお聴きください。」

お堂の中に弦楽の繊細なハーモニーが静やかに響き渡り、この「Aqua」の演奏には思わず涙が出たと僧侶の方々や参列のお客さまから言っていただけました。

「2曲目は坂本監督が所属されていたバンド、イエローマジックオーケストラ、YMO時代に作曲された作品です。こちら、今日セカンド・ヴァイオリンを担当しております伊達は“洗練されたリズムで独特な緊張感を感じさせながらも、かっこいいメロディラインを楽しむことができるから好きです!”と申しております。
これから演奏する「BEHIND THE MASK」は、マイケル・ジャクソン、エリック・クラプトンなど欧米のポップミュージック、ロックミュージックの偉大なミュージシャンがこぞってカバーした坂本監督の名曲です。
ここ東大寺様で伝わる中国伝来の芸能の伎楽(ぎがく)は仮面劇であり、貴重なマスク、お面が遺されている場所でもあります。マスクのご縁で演奏できることに感謝いたします。
それでは、お聴きください。」

「早いもので最後の演奏曲となりました。やはり坂本龍一作品と言えばこの曲という代表曲で締めくくりたいと思います。」

この時のMC高橋さんはというと、

本当に大仏様に語りかけるような立ち位置で司会の重責を務めてくれました。
「みなさん映画『戦場のメリークリスマス』をご覧になった方はいらっしゃいますでしょうか? うなづいてくださっている方がたくさんいらっしゃってうれしいです。どうもありがとうございます。
わたしはこの曲にとても魅力を感じています。“このオリジナル曲での、鈴と拍子木の音が重なる部分が西洋と日本を同時に表している気がして、クリスマス感も感じることのできる魅力的な感じが好きです”
大仏様の前で、ましてや仏教のお寺のお堂内で「メリークリスマス」は、いかがなものか。そう思ったものの、寛容な盧舎那仏様(るしゃなぶつさま)の慈悲に包まれた気持ちで、東日本大震災で亡くなった方々へのご供養の気持ち、これからの復興の気持ちで、祈りをこめて演奏させていただきます。「メリークリスマス、ミスターローレンス」メインテーマです。お聴きください。」

折しも開式とともに降り出した雨が大仏殿に降る音と4人の合奏で、今ここにしかない『戦メリ』の響きが立ち上がっていきました。

無事に滞りなく演奏を終えることができました。

丁重にお辞儀をする先にはもちろん、このお方です。

そうです。大仏様は最前列でお聴きくださって、われわれの音を受け止め、反響板ともなっていただいたのです。なので、この日この時の演奏は東北ユースオーケストラのカルテットと大仏様、雨と大仏殿の祈りの合奏だったのです。

奉納演奏後にも荘重な空間に笑顔無しの緊張感でありましたが、達成感のある皆の表情でございました。

最後に鶴岡八幡宮の𠮷田茂穂宮司と東大寺の橋村公英大僧正(別当・華厳宗管長)からご挨拶がありました。

𠮷田宮司は「被災した方の心のよりどころになるよう祈り続けなければならない」と力強くお話しになり、橋村別当は「生きている限り災害は起こることを忘れず手を合わせることが大切」と、これからも続く災害への祈りの誓いを述べられました。

式が終わったあと、参列者から声をかけていただきました。誰かと思えば、2022年の定期演奏会での企画であったベートヴェンの第九「つながる合唱団」の卯城保浩さんでした。わざわざ姫路からお越しいただいたとのこと。ありがたいことに共演のご縁がつながっております。

図らずも式の最中にだけ降った雨について、橋村別当は人間にはどうすることもできない自然の力と説かれておりました。自然災害の多い日本の宗教にあっては、この自然観は神仏の違いを超えたものだと実感できましたし、神仏習合した「祈り」に宗教の原点を見た気がいたしました。
「水」による供養と祈りの時間は、この日この時にふさわしいものと思われました。坂本監督は雨がお好きだったなとも。

大仏様の台座でお務めをされていた森本公穣さんから、さらなる合奏の音の情報をいただきました。「ちょうど演奏が終わったタイミングで、遠くから鐘の音が聞こえたかと思います。あの音は東大寺の大鐘で、奈良時代に造られたものです。毎日20時に撞いていますが、法要が少し早く始まったことから、皆さんは奈良時代の音ともセッションされたことになりました🎼」

主催者から関係者の直会の席にお呼びいただき、ようやく休めた笑顔のメンバーです。

かと思いきや、会の冒頭に東大寺様、鶴岡八幡宮様に続き、東北ユースオーケストラからも代表の方にご挨拶してくださいと「無茶振り」(司会の方のご発言)がありました。

もちろん、この人にお願いしました。

心配しましたが、さすが東北ユースオーケストラメンバーです。アドリブにも強かった!

これが実に堂々とした挨拶で東大寺の長老様方(別当・管長経験者の皆様です)はじめ、みなさんから絶賛の拍手とお褒めの言葉をいただけました。

締めのご挨拶は森本公穣さんのお父様、森本公誠長老でした。

御歳90歳の卒寿を迎えられながら矍鑠(かくしゃく)たる最年長の長老で、『東大寺のなりたち』(岩波新書)という書籍の著者でもいらっしゃいます。

宿泊先にたどり着けたのは23時過ぎ。

しかしクリスマスツリーを見つけると、しっかり記念撮影です。トナカイが奈良の鹿に見えました。

翌日、奈良から京都に向かう電車でヴァイオリン担当の伊達さんと隣り合わせに座ることになりました。伊達さんは2期前の8期からの団員です。
「どうして東北ユースオーケストラに入ったの?」
「レベルの高いイメージで大学に入るまでは、とても自分では無理と思っていました。でも坂本龍一さんに会いたかったんです。はじめての本番が2023年のマーラーの五番の演奏会の時だったから結局会えなかったのが残念です。」
坂本監督はその期の最後の東京公演を見届けるように、その2日後に息を引き取られました。
「311の時はどこにいたの?」
「父が転勤族で半年前に大熊町に引っ越していました。原発から3キロのところに家があって、震災直後に避難所にいたら自衛隊の人がやってきて、”ここから出ていって逃げてください”と言われ、福島市のおばあちゃんの家に移りました。それ以来、一度も大熊町の家に帰っていません。父が一度だけ防護服を着て貴重品を取りにいっただけです。学校の給食担当のおばさんは津波で流されてしまいました」
「そんな大変な目に遭っていたとは・・・。それは小学一年生でも強烈な記憶として残っているよね」
「はい、だから昨日の演奏は自分にとっても大切な追悼の機会になって、ほんとうによかったです」

東大寺様、鶴岡八幡宮様、このたびは貴重な奉納演奏の機会を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。

引き続き東北ユースオーケストラへのご支援をよろしくお願いいたします。
また演奏のご依頼についてはできる限りお応えして参りますのでお気軽にご相談ください。

支えられるから、
支えるへ。

東北ユースオーケストラ