12月の合同練習会レポート
12月23日(土)に今年度の4回目となる合同練習会を福島市で行いました。今年最後の練習だけに団員のみなさんへのクリスマスプレゼントかつ年末大蔵ざらえ的な1日になりました。朝の9時30分集合で午前中は東北ユースオーケストラ初の作曲ワークショップを開催できました。お迎えしたのはこのお二人。
左の男性は現代音楽の作曲家の藤倉大さん。世界の数々の作曲賞を受賞され、世界の数々の音楽祭やオーケストラから作曲の委嘱を受けられている、押しも押されぬもせぬ世界の第一線で活躍される方。藤倉さんが坂本龍一監督の長年のファンとのご関係から、今回のワークショップが実現できました。今年の3月の演奏会では団員の出身地である東北3県の民謡各3曲をベースにした「Three TOHOKU Songs」を我々のために作・編曲いただき、先日楽譜公開されたことはこのホームページでもご案内したばかりです。
そして、お隣の女性は安達真理さん。きらびやかなご経歴の、来月にはCDデビューされる「新進ヴィオラ奏者」が、団員がつくった作品をなんとその場で演奏していただけるという贅沢企画。
まずは藤倉さんがヴィオラの音階について軽妙な語り口でホワイトボードを使って解説されるや、安達さんが武満徹作品を奏でられ、藤倉さんは「自分はミュート(消音)が好き」と告白されるや、安達さんがミュート奏法を実演。「架空の距離が出るんです」との藤倉さんのコメントが渋いのです。
事前に藤倉さんからは「いろんな特殊奏法を知ってもらう」と聞いていたのではありますが、わたくしは「特殊」を軽く見ておりました。まずは、これから。「世の奥様方、これが楽器になるのです!」と言うと、ジェンダーによる認知バイアスと指弾されかねませんが・・・。
藤倉さんが手にしているのは、洗濯バサミです。しかも、藤倉さんは化学実験をするサイエンティストのように挟み方と音色の関係をあれこれと忙しなく探っていかれます。次に出でたる小道具は、
えーっと、消しゴム!もちろん藤倉さんが消しゴムを横にしたり、縦にしたりの音色探りまくりの「民族楽器っぽい」とか「寂れたおじいちゃんみたいな音」とかのコメントに、安達さん越しのTYOヴィオラパートの面々が破顔の笑みです。この後も、ヘアピンを1本、さらに団員の持っていた違うタイプのヘアピンを1本、2本と弦につけてみたり、「ドイツではよく見るんですよ」と藤倉さんがアルミホイルを弦に乗せたり巻きつけたりで、もはや借り物競走オン・ザ・ヴィオラのストリングス状態。
次は大根おろしかまな板かと思いきや、こんどは弦楽器の特殊部分を弓で鳴らす「特殊奏法」に突入です。「スル・ポンティチェロ」。もう何がなんだかわかりません。イタリア語だそうです。そう知ると、美味しそうなパスタが出てきそうですが、コマの上を弓で引くそうです。「そんなん、知らんがな」との思いを管楽器メンバーも共有していたようで、弦楽器メンバーの奇行をぽかんと見つめる他なすすべはありません
その後、弦楽器のあちらこちらを弓でさすり、最後には弦楽器を裏返して弓をこすっていたところまでは職務的義務感から覚えています。
さて、藤倉先生から。「それでは、これからみなさんに作曲してもらいます」
団員のみんなから一斉にハテナマークが練習会場に放出されました。
そんな折、今日の合同練習会場に到着されました。
いつのまにか坂本龍一監督は、今年のコンミス(「コンサートマスター」の女性型「コンサートミストレス」の略で、第一バイオリンのトップ)千葉はづきさん(大学院一年生)と談笑されているではありませんか。
ホワイトボードには藤倉さんの板書が残り、
団員はいざ作曲です。
ん、こちら藤倉さんの作曲ワークショップに過去何度も自主参加してきたというパーカッションの塘英純くん(福島市の高校一年生)を取り囲む人たち。
将来作曲家志望の塘くんは、これまで過去2回のTYO演奏会のオープニングファンファーレをつくってくれていましたが、このたび桐朋学園の音楽コンクール作曲部門高校生の部で第3位(1位2位該当者なし)という成果を収めることができたとのこと。塘くん、身長もぐんと伸びて、まさに伸び盛り。
団員が作曲中の「教授回診中」(山崎豊子『白い巨塔』を意識してみましたが、そんな威厳押し付け風じゃないですよ)のひとこま。我が子の練習を見学する大義のもとに来られた、スリーお母様ズとの記念写真(「もう感激!」の声を耳にした気がします)。
さて、できたてほやほやの団員の作品を藤倉さん凝視凝聴のもと、安達さんにその場で演奏していただけました。なんたる贅沢!まずは、コントラバスの山崎寛大くん(大学一年生)から。
続いては、トランペットのトップ、中村祐登くん(大学四年生)。
ヴィオラパートはもちろん曲を仕上げるよねと藤倉さんからのプレッシャー。
次は楽譜を持つファゴット西村優里さんの作品かと思えば、隣のフルートの菅野桃香さんが書いた曲を目の前で安達さんが演奏。
そして、みんなの前で披露。今年からメンバーに加わってくれたトランペットの井出大雅くんは、特等席で自分の作品を聴きます。
続いて、1期から参加で今年音大に入学した、盛岡出身の遠藤寛人くん(トランペット)も特等席で自分の作品の世界初演を砂かぶり席で体験。
ヴィオラ担当だけに注目を集めていた、左から鈴木祥子さん、佐藤ひかりさん、村岡瞭くんのトリオの作品も完成しました。
結果、全員がすんなり作曲に取り組みました。当初は、この作曲ワークショップ自体が成り立つのかと非常に異常に心配していたのは、単に大人は杞憂であったと証明されてしまいました。
他にも作品の発表に名乗りを挙げてもらったのですが、トリをつとめてくれたは筒井温之くん(トロンボーン、大学二年生)。藤倉さんもおっしゃっていたのですが、「すべて初見で弾いてしまわれる安達さんが凄い!」と。これまで気づかなかった団員の創造性をまざまざと体感できました。どうもありがとうございました。
そして、ようやく昼休みです。練習会場のホールを出ると、
ホルンの大学生三年生千葉大輝くんがサンタクロースのコスプレで暴走しているではありませんか。その心は、
坂本監督からの苺のショートケーキ(福島市の洋菓子屋さんの品)の差し入れをみんなに配るために持ってくれていたのでした。
さらにこの日は毎年の演奏会を支援していただいている森永エンゼル財団さんから森永製菓のお菓子、森永ミルクキャラメル、ダース、おっとっとのプレゼントをいただきました。
急きょ東北ユースオーケストラ・エンゼル・ガールズを編成して感謝の記念写真です。
森永エンゼル財団さん、どうもありがとうございました。
おかげさまでランチタイムは楽しいひと時になりました。
小学生から大学生までが混じり合う、東北ユースオーケストラの光景です。
昼休み明けはみんなで集合。今年度のオフィシャルフォト、アーチスト写真(アー写)、宣伝材料(宣材)の撮影大会です。今年もTYOのデザイン全般を見ていただいている「美術教師」の長嶋りかこさんディレクションで、丸尾隆一カメラマンに撮っていただきます。
坂本監督からの「みんなでふざけよう!」とのお茶目な掛け声に思い思いのふざけ方で応じる団員達の図。
こういう瞬間にもクリエイティビティが問われますね。食後のデザートがヴァイオリンの人たちもいます。
そして、出来ました、今年度の東北ユースオーケストラです。
せっかくなので藤倉大さん、安達真理さんもご一緒バージョンも。
本拠地のニューヨークから来日中の忙しい日程をぬって参加いただいた坂本龍一監督から一言いただきます。3割は初対面の団員たちを前に、今年度は音楽性を高めるチャレンジをしたいとの抱負を語っていただきました。
この模様は福島民報さんの記事にもなりました。
午後の練習は3月の演奏会のメイン楽曲のひとつ、ドビュッシーの「海」第一楽章からです。
坂本監督、藤倉先生がスコアを追いながら演奏レベルをチェックされています。
続いてストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919年版)の練習です。
およそ2時間。大人のオケでも難しいと言われる2曲に懸命に取り組みました。
そして休憩をはさんで、坂本監督も合奏で練習に参加です。
まずはTYOでは初の演奏となる「戦場のメリークリスマス」をクリスマスイブ・イブに練習します。
続いてTYO恒例の坂本楽曲「ETUDE」を。
指揮の柳沢寿男さんとともに監督も手拍子を打ってリズムの取り方をご指導。
みんなも合わせてハンドクラップ!
続いて「Behind The Mask」。狭間美帆さんのご厚意で編曲された、坂本監督のYMO時代の曲です。
出だしはホルンと打楽器が忙しそう。テクノポップで「Behind The Mask」聴いた世代としては、オーケストラアレンジでこの名曲を鑑賞する味わいが感慨深いですよ。
さらに「Three TOHOKU Songs」も作編曲の藤倉大さんの前で初めてご披露します。
「うまいなぁ」と藤倉さんに有難いお褒めのお言葉をいただきながら、さっそくご本人自らがその場でスコアを手直しされていきます。
こういう現場自体が団員にとって貴重な体験になります。
締めは弦楽器だけによる坂本作品「Still Life」の練習で、ゲストの吉永小百合さんとの共演にそなえます。
この楽曲は10を超えるスコアのピースを各自がそれぞれの順番とテンポでバラバラに演奏するというもの。坂本さんの最新作「async」に通じるコンセプトですね。監督も演奏をチェックするためにスマホでレコーディングされていました。
ということで、盛りだくさんの長い1日の練習が終わりました。みんな名残惜しそうに練習後に輪になって話していました。
来年の演奏会は、3月21日@東京の初台オペラシティコンサートホール、31日@仙台の東京エレクトロンホールです。素晴らしい演奏をお聞かせできうように取り組んでおりますので、ぜひみなさまご来場ください。
また有志メンバーによる被災地に赴いての演奏会へのご支援をお願いするクラウドファンディングもはじまっています。来年もどうぞ東北ユースオーケストラを応援いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
みなさま、よいお年をお迎えください。