1月の合同練習会@福島市の2日目
1月の合同練習会@福島市の2日目
1月21日(日)、昨日に続く合同練習会の2日目。クラウドファンディングチームのリーダー、福島県いわき市の大学2年生の橋本果林さん(コントラバス)が、満面の笑みで団員に協力を呼びかけるチラシを紹介してくれました。有志による被災地での自主的演奏会への募金の目標金額に到達したものの、27日までの期間中はできる限りのことをして応援してください、という内容です。
この檄文は福島県伊達市出身で、現在は都内の大学でスペイン語を勉強している大波さくらさん(トロンボーン)が書いてくれたとのこと。ちょうど昨日インタビューをこのサイトで紹介したクラウドファンディングチームの一員です。実施中のジャパンギビングでの告知ページはこちらになっております。
https://japangiving.jp/campaigns/33745
今回は返礼品無しの寄付をいただく形でお願いしておりますが、ページを見ていただくだけでも、SNSでシェアしていただくだけでも有難いご支援です。繰り返しになりますが、27日までですのでどうぞよろしくお願いします。
さて、合同練習2日目の朝のオリエンテーション。みんなに向かって「おはようございます!」と言うと、やおら仙台市の大学4年生、中村祐登くんがトランペットで「Happy birthday to you」を奏でるではありませんか。そうなんです、わたくしこの日が誕生日だったのです。なんとも面映くこそばゆく、透き通ったラッパの音を聴き、団員から「おめでとうございます!」との祝福を受け、決まり悪く「今日で49歳になりました」と告げるわたくしは果報者でございました。気遣ってくれて、どうもありがとう。
大まかな話しかできないわたくしと違って、細かい伝達事項や注意事項は事務局の岡田直美「お姉さん」からの連絡となります。
今日は、演奏会でのドビュッシー『海』とともにメインの楽曲となる、ストラビンスキー『火の鳥(1919年版)』の練習からはじまります。ヴァイオリンのシフトに変化がありました。
今期の第二ヴァイオリンだった福島市の高校1年生、山崎優子さんがこの日から第一ヴァイオリンにコンバートとなりました。全体バランスを見ての指揮の栁澤寿男さんの判断です。ヴァイオリン担当の小・中学生におかれましては、さらなる精進をお願いしますよ(演奏曲を何度も聞いて、譜面をしっかり追いかけて、もっと練習しようね!)。
『火の鳥』ではステージに乗らない、降り番のフルート担当の2名がちょうど今年度からの第三期生だったので、話を聞いてみることにしました 。昨日に続く、TYO団員は語る2018、後編です。
遠藤なみさん、現在は盛岡の大学に通う1年生です。
311にどんな体験をしたのか教えてもらえますか?
当時は福島市に住んでいて、小学6年生でした。その日は教室の机と椅子をワックスかけするために廊下に出す日で、3階の教室で友だちと2人だけで帰ろうとしたら地震が来ました。「ストーブを消してください」という校内放送が流れ、急いで消したのを覚えています。学校の玄関前の広場から校庭に出たら、隣で火事が起こり、体育館に避難しました。わたしは学童保育だったので、夕方までみんなで毛布にくるまって寒い中、お母さんのお迎えを待っていました。
家の電気は大丈夫でしたが、断水が1週間くらい続き、それに苦労しました。市役所までタンクで水を取りに行く生活だったので、風呂には入れず、トイレにも不自由しました。卒業式が出来なかったから、中学校が始まるまではずっと家にこもって暮らしました。一年くらいはずっとマスクをしていました。
311を体験して自分の中ではどんな変化がありましたか?
しばらく続いた余震で地震には慣れたけど逆に敏感になりました。ちょっと揺れでも地震が来るかわかるようになり、どれくらいの震度かとか予想できるようになりました。
沿岸部の浜通りから避難しくる人たちで仮設住宅が周りにいっぱい立ちました。だから今でも仮設住宅を見ると、あの当時のことを思い出します。
地区で消防団が中心となって防災や減災の取り組みが増えました。父が地区のリーダーをしていることもあり、よくそういう話を聞きます。
いま盛岡での一人暮らしの部屋にも災害時用の持ち出し袋を置いています。
いまだに友達や周りの人と震災について話します。こないだも同じ大学の釜石から来ている子から、津波で川が逆流してたのを見た話を聞いたばかりです。
東北ユースオーケストラでどんな活動をしたいですか?
中学で吹奏楽部に入り、フルートを演奏しています。高校になってFTVジュニアオーケストラにも入っていました。友だちの橋本悠さん(フルート、宮城県、大学一年生)に誘われて、今期から東北ユースオーケストラに入りました。橋本さんのお姉さん(愛さん、クラリネット担当の福島市の大学三年生)が一年早く入っていて、「楽しいよ」と聞きました。
今回の演奏会のメインの2曲は難しいです。しかし、いろんな人に自分の音楽を聴いてもらえるのがうれしいんです。できれば東北のいろんなところで演奏して、いろんな人に聞いて欲しいと思います。団員有志による自主演奏会にも積極的に参加したいです。
先月の合同練習会で坂本龍一監督に初めて会って、坂本さんがピアノで団員と一緒に演奏した曲が、「あ、これは前から好きだった曲だ」と思ったら、それが『戦場のメリークリスマス』でした。両親に坂本さんと合奏したと報告したら、「お前はどんな凄い人なのかわかっているのか!」とびっくりされながらもとても怒られました(笑)
遠藤さん、お願いしますよ!この日、着ていた純白のパーカーには「Figure out what you think is best」と書かれていたではありませんかっ!東北ユースオーケストラのルーキーとして、"Figure out what you act is best"で、これからの成長に期待していますよ!
そして、もう一人のフルート降り番は、 坂本彩雲さん(中学一年生、宮城県仙台市青葉区)です。
311の地震ではどんな体験をしましたか?
幼稚園に迎えに来てもらったお母さんと帰ろうと外に出たら地震が起きました。あまりの揺れに泣いて、ずうーっとお母さんにひっついていました。地震は今でも怖いです。その後、お母さんの運転で車で帰ったのですが、 停電で信号が消えていて、自動車同士の交通事故も起きていました。家の中は箪笥倒れたり、食器が割れたり、ぐちゃぐちゃに なっていました。夜はカップラーメンを食べたことをよく覚えています。余震が続くのが怖くて、しかし、いつの間にか寝ていたのですが、お母さんはそばでずっと起きてくれていました。
311以降変わったことはありますか?
どんな地震でも敏感に反応するようになりました。家の中には常に予備の食材を置くようにしたり、時々避難ルートを家族で確認したりしています。
あと、困っている人がいると助けてあげようと思うようになりました。どんな小さなことでも自分にできることがあればしたいなと。たとえば、友達が消しゴムを持って無かったら貸してあげるとか、知らないおばあさんに道を尋ねられても、ついていって道案内をするとかです。どんな小さなことでも人にしてあげたことは、いつかは自分に返ってくるかなと思うようになりました。
東北ユースオーケストラでの活動はどうですか?
中学生になって吹奏楽部に入ってフルートをはじめてまだ一年も経っていません。小学校からの同級生の鈴木南美さん(第一期生、ヴァイオリン)の影響で東北ユースオーケストラに入りました。去年の3月の郡山市での演奏会を聴いて、わたしもぜひやりたいと思いました。昔から仙台の雀祭りで篠笛を吹いていたので、きっとフルートが楽しいかなと思いはじめました。実際、まだ全然吹けないけど楽しいです。
深く傷ついている人を音楽の力で癒してあげたいと思っています。自分の場合、どんな音楽でも聴いていると癒されます。演奏者の立場になって、この人はこんなところを気をつけて演奏しているんだなとか想像しながら聴くと、あっという間に時間が過ぎてゆきます。団員の人たちと好きな音楽ができるといいなと。
どんな音楽が好きなんですか?
ケルティック・ミュージック(ケルト人に由来するとされる音楽)が好きです。
それは意外だね! アニメの音楽でも言うのかと思ったよ(笑)
お父さんの影響なんです。他にもカントリーミュージックやクラシックもよく聴きます。
坂本龍一さんは作曲家として尊敬しています。だから今回の演奏会で自分の好きな『ラストエンペラー』や『戦場のメリークリスマス』をご本人と一緒に合奏できるのはとてもうれしいです。
将来の夢は?
できれば音楽の道に進みたいと思っています。
今年は降り番になってしまったかもしれないけど、近い将来にフルートのソロを吹いて欲しいものです。あと東北ユースオーケストラとして篠笛で演奏する曲もあっていいかもね。
そして、昼休みにもう一人に話を聞くことができました。
木戸口夏海さん、岩手県出身で現在は東京の音楽大学の四年生として、クラリネットを担当しています。
311にはどんな体験をしましたか?
岩手県北上市の中学校三年生で、卒業式の前日でした。卒業式の予行練習をして、遊びに行く途中、横断歩道の信号が青になった瞬間に地震が起こり、近くの大型のトラックが揺れ始め、立っていられず、友達と三人で道路にしゃがみました。家族の安否を確認したいと、急いで家に帰りました。うちは自営業で、10人くらいの方が働く縫製工場をしています。おばあちゃんが社長で、お母さんが専務という会社です。二人とも無事でしたが、家の中は戸棚からお皿が全部飛び出したりでぐちゃぐちゃでした。工場の1トンの機械が地震で動きました。
3、4日間は電気、水道、ガスが止まりましたが、幸い石油ストーブでご飯がつくれました。情報源はラジオでした。暖を取るためにも車の中でエンジンをかけてカーラジオを聞いていました。でもガソリンも無くなって、次の日は朝からスタンドに並びました。
311は恐怖の体験でした。怖かった。余震が続いて、これからどうなるのかと。石巻の友達の安否が確認できるまでは1週間もかかりました。家族や周りの命はどうなるんだろうという思いがずっと続きました。
311を体験したことで、どんな気持ちや行動、価値観の変化がありましたか?
高校に入って5月、まだ被害の影響が強く残る沿岸地域に吹奏楽部で演奏に行きました。わたしは一年生だったので演奏には参加できず、炊き出しを手伝ったり、食事を体育館で非難されている方々に提供する役をして、直接お話をする機会がありました。
その頃、プロの演奏家やアーティストは、演奏で人々を勇気づけることができる。元気づけることができるんだなと痛感しました。
わたしもそういう人になりたいなと強く思いました。だから、音大に進みました。311が無かったら、今のわたしは無いと思います。小学生三年生からはじめたクラリネットは、もう今年で13年目になります。
どうして東北ユースオーケストラに入ってくれたの?
去年の春、地元の新聞、岩手日報で「団員追加募集の記事が出ているよ」と母に言われました。「あ、わたしにぴったりだ!」と思ったんです。大学の後輩の阿達弘将が福島の会津出身だと知っていたので、誘って一緒に入りました。
そんな木戸口さんにとって、東北ユースオーケストラはどんな団体ですか?
どんな活動をしたいと思いますか?
普段はまず小学生と出会わないじゃないですか(笑)幅広い人と出会う経験はここしか無いと思いますし、だからこそいろんな話を聞けるのは楽しいです。東北のほうはなかなかプロの先生が教える機会とか無いです。だからプロのいい音を聴くことがめったに無い。だからもっと地元で演奏をしたいです。子どもたちにクラリネット教えていきたい。今も岩手県の北上や花巻で中高で教えています。
3月の演奏会に向けて、どんな抱負がありますか?
ドビュッシー『海』、ストラビンスキー『火の鳥』、どちらも難しいです。普通は音大でやる曲ですよ。わたしたちでも難しい。最初に募集要項を見た時に「凄い挑戦だな」と思いました。中学校高校生はよくやるなと。でも、やるしかない!
監督の坂本龍一さんのことは正直あまりよく知りませんでした。でも実際に会ってみると、まず人としてダンディな方ですね。そして先月の合同練習で合奏して、ピアノの表現の幅が凄いなと感じました。こんな音楽の世界があるんだなというのは、わたしにとって新鮮な驚きでした。
東京で演奏会をするのですから、いま被災地がどういうことになってるかを伝えたいです。演奏が上手い下手より、いま自分たちが頑張っていることが伝わればいい。それはテレビなどでは伝わらないと思います。小さい子からわたしたち大人までが頑張っている姿を生で見て、何かを感じてもらえればいいです。
そして、音楽の力で元気づけれることができれば。
ありがとう。ぜひその気持ちでみんなを引っ張っていってね。
わたしは春に大学を卒業して、プロの演奏家を目指すのですが、東北ユースオーケストラの運営とかのお手伝いをしたいです。
心強い発言の数々が実に頼もしかったです。何しろ木戸口さんの着ていたトレナーには「GET OVER IT」とプリントされていましたからね。
これから団員が来ている服が発するメッセージにもっと注目しようと思いました。
午後も引き続き『火の鳥』、そして昨日の『海』の部分部分を栁澤さんのご指導で磨いていきました。
なにしろ本番の演奏会まであと2ヶ月、しかし来月の合同練習会のあとはすぐに本番直前合宿ですから、指揮の栁澤さんは険しく、しかし柔和なお人柄で細かい指示を出していただきました。
練習の終盤には、今回初の演奏となる坂本監督のYMO時代の『Behind The Mask』などの演目も練習し、二日間の福島市での合同練習会を終えました。
東北ユースオーケストラ演奏会2018の一般チケット販売は、2月3日(土)からとなります。今年は東京と仙台での公演となります。少しでもいい演奏をお聴かせしようと懸命に取り組む団員たちの晴れ舞台を生でご堪能いただければ幸いです。